HOHNER Pianet T

問題です。グランドファンクの最も有名なキーボードサウンドとは?

Footstonpin'Musicのオルガン、MeanMistreaterのFender Rhodesピアノ、はたまたCloserToHomeのストリングスサウンドでしょうか。

私がオモウニ、「最も」有名なのは、全米No,1ヒット曲「We're an American Band」の、あのサビ部の「ピッピッピッピッピ」という8分音符ではなかろうか。と。

あの音、何の音に聞こえます?

エレピのようでもあり、オルガンのようでもあり、でもレスリースピーカーは回ってないし。。。コレ考え始めると、ほうら、頭の中で「ピッピッピッピッピ」って、ずーと鳴りっぱなしになるでしょう。(笑)
で。検証しました。先ごろ発売されたDVDの、あの有名なプロモーションビデオです。
ついに“鮮明な画像”の映像が入手できる良い時代になったのです。

クレイグは右手で8分音符を弾いています。
クレイグの右側といえば、ウィリッツァーの・・・・アレ?ウィリッツァーじゃないぞ!
見たことないエレピだっっっ。「なんだ、あの三角の蓋は?」

で、一瞬しか写らないので何度もコマ送りにして(DVD万歳!)、遂に判明したのがこの HOHNER Pianet だったのです。
クレイグのピアネットは、古いN型という三角形に蓋が開くタイプで、色は木目ナチュラルです。写真の黒いピアネットはT型というモデルで蓋の開き方がN型とは異なりますが、有名なHOHNERピアネットサウンドは共通です。

で。なんで、ここにあるか。っていうと、これも所有されていらしたワケですね。暴走キーボード博士、Atsumiさんが。いやはや恐るべし。

で。置いていかれっちゃったワケです。ウチに。

「これはもう使う予定はないんで、アメリカンバンド用にしよう」と。(爆)

ビデオを見ると、クレイグはこのピアネットを右側に置いて右手で例の「ピッピッピッピッピ」というサビの8分音符を弾いています。

同時に正面のハモンド&クラビネットを左手で弾いていますが、サビ部分ではクラビネットの低い方をナニやら引っ叩いています。

テコトワ、あの「ピッピッピッピッピ」は、ピアネットとクラビが混ざった音なのか!?

私にはハモンドとピアネットが混ざった音に聞こえるのですが、どうなんだろう?????

なぁんとなく、ビデオ撮影用にカメラが頭上からのアングルで撮りにくるのを意識して、弾いてるトコが写りやすいように一番上のクラビを引っ叩いているようにも見えるし、トッドラングレン氏がミキシング時に別録りしたハモンドの音を大きくしたのかもしれないし、いずれにしても不思議な音です。

ただ、アタックのポコポコしたカンジは確かにピアネットです。

なので、ピアネットとオルガンを3:7くらいの比率(オルガン濃いめ)で混ぜると、あのカンジになります。(クラビのサジ加減はよくわかりませんっ)

我が家に長期滞在(?)となったピアネット君ですが、先生っ!サビてます。カビてます。虫居ますっ。

で。WESTで慣れ親しんだ“掃除”技術が、ココで役立ちました。

中はこうなっています。

このピアネットという楽器は、今まで紹介したどのキーボードともまた異なったオモシロイ発音構造になっています。

同じピアノでも Fender Rhodes や ウィリッツァーは、鍵盤と連動したハンマーが中の鐘(音叉のような物)を叩いて、その音をピックアップで拾うのですが、それってつまりピアノの弦の代わりが音叉なワケで、鍵盤のハンマーで叩くという構造自体はピアノそのものなのです。

ところがこのピアネットは「HOHNER社」製です。
ハーモニカ屋さんです。音叉ではなく、「リード」なのです。
ハーモニカのリード、ご存知?板ですよ。板。ノコギリを叩くと「ポワワワ〜ン」って鳴るでしょ。あのカンジ。板が揺れて発音するのです。
ハーモニカは吸ったり吹いたりして板を揺らすのですが、これは鍵盤楽器。鍵盤と連動した・・・・ハンマーで叩くと思うでしょ。ブー。ハズレ。
吸盤で「吸う」んです。鍵盤と連動した吸盤(お風呂のタオル掛けとかをタイルに貼り付けるアレを想像してください)が、リードに吸い付いているワケ。
で、鍵盤を押すと、吸盤が「すっぽん」と、離れる。離れるときの「ぽん」がアタックで、離れた“反動”で、ノコギリがポワワワ〜ンと揺れる。
鍵盤から指を離すと、吸盤はまた吸い付くワケで、揺れてたノコギリはミュートされて音は止まる。。。。。なーんてアタマの良い人が居るんだっ!
この楽チン簡単構造により、FenderRhodesの1/5の重量に小型軽量化していて、それでいてそのサウンドはFenderのほーが5倍良いワケではないっ。

素晴らしいっ!

がっ!

サビです。問題は。

リードがサビてるんです。この通り。

サビると表面がザラザラになって、赤く見える吸盤が吸い付かないんです。タオルが落ちるごとく。

鍵盤を押しても、スカッと。

やりながら気付いちゃったのですが、サビが増えた分、リードが重くなるらしく、音程もフラットしてしまいます。

現状、まんべんなく、フラットしてます。(音の出る鍵盤も全部サビてるという事)

リードを削ると軽くなって音程が上がるようで、つまりジャストチューニングにするにはヤスリ片手に気の遠くなるような時間と労力を要するのです。。。気付いちゃったからなぁ。(爆)

ちなみにリードをピカピカに磨き過ぎると吸盤が強力に吸い付きすぎて、普通は「すっぽん」と離れるのが「すぅ〜っ、ポオン!」と離れるようなって、やたらその鍵盤だけ音がデカくなってしまいます。

ドレミファソシド、ネコふんじゃった。 みたいなカンジになります。
磨くのも加減が必要なようです。

それにしてもヴィンテージキーボードとは、各メーカーが独特な発音方式を採用しているトコがとても興味深いです。

エレキギターやベースは基本的な音の発生原理は同じですし、現代のデジタルシンセも各社共通です。

しかしヴィンテージキーボードたるや、ハーモニカ屋の考えた「吸盤すっぽん方式」がピアノっぽくね。とか、時計屋が考えたトーンホールが「オルガンっぽいじゃん。時計やめてオルガン作ろう」とか、テープレコーダーズラリと並べて「こっちの音は本物だぜ」とか、「ピアノ弦は長くてデカくなるから音叉にしよう」「いやいや横方向に弦張りゃいいんじゃん」とか、開発者のアイデアがどれも輝いてて、そこから生まれた独特のサウンドは正に“音楽”そのものまでもを作り出してしまったという。

ホントはピアノの音を作るつもりだったのが、似て異なるサウンドとなり、なのにそれが結果として新しいスタンダードとなる素晴らしいサウンドとなった。

それってなんだかこのサイトで紹介してきたMARK FARNER師匠のオリジネーターぶりと合い共通したものを感じませんか?

そういう知らなかった事や気付かなかった事をたくさん知ることができたて、
やっぱりこの機会を与えてくださったAtsumiさんに大感謝です。

ああ、サビてなければ、もっと感謝だったのにぃ。


生活空間を一挙に奪う、恐るべしキーボード郡の画


 

 

HOHNER Pianet N

そしてそして。 大事な事を忘れてました。
クレイグのピアネットが、T型ではなく古いN型と知ってしまったワケです。誰がって、暴走機関士Atsumiさんが。
トナルト。 はい、もうおわかりですね。

「ようし、次は N だ!」

という旗の下、地球規模での大捜索が始まっちゃったワケです。

「エージ君、N が無ければGFRキーボードコレクションは完結とは言えないよ!」と。(笑)

ところが。 なにせ古すぎて、そんなモン(←Nのこと)、日本にあるワケないし、海外にだってコンディションの良いモノが残ってるワケないんです。 トナルト、燃えるんですね。先生は。 で。燃えた結果がコレです。

ナント、フルオリジナルのPianetNが発掘されたのです!。
しかも信じられないほど綺麗なうえ、専用ペダルからオリジナルケースまで全ての付属品も揃っている完璧な状態。
この三角に立つフタ。これです。これ。
そして、このV形の足。

Coo!タマリません。これぞピアネットのN型です。
横から見ると全体のシルエットがカッチョいいトライアングル形になるようにデザインされているワケです。

別の角度から見て見ましょう。

アップライトピアノがスタンダードな時代に、

「おまえんチのピアノはまだ四角いのか。オレんチのピアノは三角なんだぜ。見に来いよ。」と。
「うそつけ〜」
「おおー、まじかよ」
「Atsumiくんチのピアノが三角なんだよ!」
「いいから宿題やりなさいっ、アホな子ね」と。

たぶん、それと似たような会話がGFRのスタジオでも交わされたのではなかろうか。と。
「おおっ、三角のピアノ持ってるのか。ようし、今日から正式メンバーだ。」みたいな。
(すみません。止まらなくなるでこの辺でかんべんしてください。)

電源ケーブルがカールコードなトコが、いったいいつの時代の物だかさっぱり分らないのですが、先のT型には電源コードがありませんので、つまりN型にはプリアンプが内臓されていて、当然T型とは出音が違うワケだったのです。
じろじろ見てください。こうなってます


フタを閉めるとこんなカンジ            Pianet Nのロゴ


専用ボリュームペダルはここにつなぎます。


ホーナーだと思ってたら“圧倒ホーナー”という
社名でした。ドイツ製です。


鍵盤手前だけビンソンと同じ金色の塗装です。
通常は木製なのでこれはレアです。

そして肝心のサウンドは。
T型よりもアタック感があり、それでいてオルガンのようなコンプレッションの効いた不思議なサスティンがあるのです。
う〜ん、具体的に言うと。。。。。アレ?、つまり皆さんご存知のアメリカンバンドのピッピッピって、あの音じゃん。
そーなんです。 これはオルガンと混ぜなくても、このままでアノ音が出るのです!

This is the Sound of "We're an American Band"!!

全米No.1となった正にグランドファンクのイメージの、アノ音が出・ちゃ・う・のです。いやはやこれにはビックリ。
N型の存在を知ってから、何の気なしに見ていたRストーンズのスタジオ風景にピカピカのN型が写っているのに気付いたり、個性的なピアノサウンドのソフトマシーンはほぼ全編がN型で彩られているのに気付いたり、ロリーギャラガー、ビートルズetc,と、どのバンドもこの独特のサウンドのN型にコダわって採用しているのを発見して、これもまたロックの歴史上重要な銘器であることを知る事ができました。 特にサイケデリックな響きのヴァイブラート・サウンドたるや。これはT型には無い機能で、しびれるモノがあります。(だからといってアメリカンバンドでまで使うとソフトマシーンの曲みたいになっちゃうのでNGなんですが。)

白いのがヴァイブラートスイッチ。
右の電源スイッチ形状も可愛らしい。

 

半世紀近くも経っているとは信じがたい、ウルトラ・コンディションを誇る内部はこうなっています。
先に掲載したT型は、N型よりも10年以上も新しい(?)ハズなのですが、サビと経年変化でソレナリのコンディションです。なのでこのN型はホント驚愕です。
で。音の出る原理は同じなのですが、よく見るとハンマー(吸盤)の形状や、リードの形状など、T型とは全く異なり、これは別モノのエレピだったワケです。
ヴァイブラート回路基盤の中央には豆電球が光っていて、電圧変化で光が明るくなったり暗くなったり揺れ、その光をセンサーが読み取り独特の「揺れ」を演出するワケです。
ジミヘン愛用のシンエイ社ユニヴァイブでもおなじみのレトロな構造ですが、そのニュアンスの素晴らしさは筆舌しがたし。(←表現のボキャなし)

作りはさすが西ドイツ製(←当時)。専用ケースに至るまでとても丁寧に作られています。
しびれるケースは某ブランドバック屋の旅行用トランクのような、威厳のあるタタズマイを誇ります。

 

収納も素晴らしい。これはテレビショッピングで解説したら売れるだろうな。というような機能的なトランクケースです。
こんな素晴らしいケースが付属しているとは知りませんでしたし、専用ペダルだけでなく、このケースまでが残っていたことも奇跡です。

いつも思うのですが、ヴィンテージの楽器ケースは作り手の楽器に対する丁寧な気持ちが垣間見えて見てるだけでワクワクします。
このサイトとリンクしているMountainManaicに、とても面白いVintageCaseManaicというコーナーがありまして、この素晴らしいケースの詳細はそちらにもアップしてあります。 是非ごらんください。

「ようし、これでクレイグフロスト・コレクションは全て揃ったぁ!」 と、大変お慶びの先生ですが、すでに次なるターゲットは前述リンク先の。。。いやはや。

恐るべし暴走機関士ビンテージ・ロック・キーボーディストぶりです。

勉強になりますっ!

あ。これにて、今現在判明しているグランドファンクの使用したキーボードが遂に全て揃いました。
当サイト全体の1/4。  のハズが、どう見ても2/5は占めています(驚) 総重量1トン以上もある驚愕のヴィンテージ・キーボード・コレクションと、それらの素晴らしいサウンドをこの暴走機関車の上で公開してくださったAtsumiさんにあらためて大感謝です!


全部読んでくださった方、お疲れ様でした。 たぶん。

「どうしてそんなに王道ヴィンテージキーボードに詳しいんだっ?普通プログレファンでもそこまで知らねーぞ。」
と言われちゃうハズですので、 そんな場面に出くわしたら、人さし指を立てて、
「グランドファンクさ。」 と答えてください。
まだまだ続く。(爆) Coo!

≪ 友達募集!≫

実は。このPianetN型、あまりにもレアで他には見たことも弾いたこともないんです。
メロトロンよりレアかも。
やはり楽器は何台か弾き比べたりしないと、正しいコンディションの判断が出来ませんので、もしもこれを読んでいる方の中で、「おう、オレも(アタシも)持ってるよ。」という方が居らしたら、是非御一報ください。
いろいろ教えてくださいっ。

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