Amusing Vintage Drum

NORTH MANIAC

written by Eiji Farner

NORTHドラムセットです。
だあれも知りません。(笑)
なんじゃこりゃ。です。(笑)

そんなカンジの楽器ばかり使用するグランドファンクに魅かれ、暴走サイトGrand Funk Manaicを執筆してきましたので、それなりにそーゆー楽器が好きで、それなりにいろいろ知識も得て来たつもりだったのですが。。。

初めて見ました!

で。「これはっ!」と、ビビビと直感が働きまして、このNORTHドラム取材に走ったのでした。

今まで数々の“特別な”楽器を取材してきた中で、トアル確信というか、持論を得たのですが、それは「本物の楽器は“奇蹟”を導く力を持っている」ということでした。
で。このNORTHに、そういう“Vibe”を感じる楽器特有の波長をビビビと感じたワケです。

サテ。このNORTH。

今から30年以上前、1970年代後期に短命で散った“幻”のドラムメーカーです。こう見えてヴィンテージです。(笑)
使っている現役ミュージシャンを誰ひとりとして知りません。(笑)
当時も今も売っているのも見たことがないし、雑誌に写真が載っているのすら記憶にありません。

で・す・が。
1979〜1980年頃、テレビでよく見ていたので、やたら印象には残っています。

使っていたバンドは、MOON DANCER。

 

 

厚見玲衣さん(当時は厚見 麗)がデビューしたバンドです。

 

はい。もうお気づきですね。
取材した、このドラムセットのオーナーは、厚見さんなのです。

デビュー当時にバンドが所有していたNORTHは、日本に入ってきた恐らく最初の1台をバンドでGETしたそうで、残念ながらバンドの解散時に行方不明(恐らく粗大ごみとして破棄処分)となってしまったそうです。
で。このNORTHはその後32年の歳月を経て、ようやく北米大陸で新たに発掘されたものです。
32年間、ほんとうに一度も見つける事が出来なかった“幻”の楽器なのです。

Grand Funk Manaic でも20〜25年探し続けた超レアな楽器があります。
それらの楽器は21世紀になり急速に普及したインターネットによって巷に溢れ出た膨大な“情報”によって次々と発掘されていったのですが、このNORTHは21世紀になってからすでに干支が一周したにも関わらず、全く見つからなかったというくらい、超ど級のレア楽器なのです。

だいたいにして、資料が全くない。(笑)

MESSENGERギター とか、WESTアンプ とかと一緒で、そーゆー楽器って、燃えるんです!(笑)
で。そういう資料の無い楽器を、唯一ヒモトク方法があります。

実際に手に入れて鳴らしてみる。
これしかありません。

もはや日本人が、世界一MESSENGERやWESTに詳しい民族であるように、この NORTH MANAIC によって、「なんで日本人はNORTHにやたら詳しいんだ!」と世界中が驚嘆する時代が来ることでしょう。

あ。NORTHね。もちろん知ってるよ。アレだろ、ホレ、こーゆーカッコの。
って、街のアチコチで、ジェスチャー付きの会話が溢れる時代に向けて。(笑)

では、NORTH MANIAC の発進です!
各部を見ていきましょう。

なんといっても目を引くのは、この“食虫植物うつぼかずら”をひっくり返したような湾曲した長いシェル(胴)です。

 

材質はファイバーで出来ています。
美しいライトグレーのカラーと相まって、その風貌はまるで。。。工事現場の配管のようです!

アメリカで発掘され、輸入前にヤリトリした写真では白っぽく写っていたので、てっきり白だと思っていたもので、このライトグレーを最初に見た時のインパクトは強烈でした。
「たった今、アメリカから届いたんだけど。。。白だと思って箱を開けたら、ネズミ色なんだよ!泣きそうだよ!(笑)」という連絡が来たときは、さすがに「ネズミ色もかっこいいじゃないですか!」とは言えませんでした。

「配管みたいだよ。。。家が。。。工事現場のようだよ!」
ここは、ぜったいに笑ってはいけない場面だということは誰もが察するところです。

ネズミ色ではなく、美しいライトグレーであることを、ここに強調しておきます。

打面サイズは、キックが22″、タムタムが6″8″10″12″、フロアタムが14″。
全部で6点セットです。その他に専用のスタンド類も付属されることから、てっきり大量の箱が届くものと予想していたのですが、届いた箱の数がやたら少なかったそうで、輸送上のトラブルかと箱を開けてみたら、ナント。

「マトリョーシカみたいに、うまいこと重ねて梱包してあったよ!」って。(爆笑!)

もはやここまで堪えていた笑いを耐えきることは誰にも出来ませんっ。
妄想してください。玄関を埋め尽くす工事現場の配管みたいなネズミ色の、でっかいマトリョーシカです。

食虫植物の“うつぼかずら”は昆虫などの動物を、おびき寄せ、捕まえ、それを殺して消化して養分とします。その“うつぼかずら”をひっくり返したようなデザインのこのNORTHに、まんまとおびき寄せられ、捕えられ、笑い殺されかけてしまったボクは虫ケラのようなモンです。

独特の形状のタムタムを見ていきましょう。
見ての通り、打面側だけにヘッドが張られたシングルヘッドです。
底面側(というか観客側(笑))は、ヘッドを張りたくてもダ円形なので無理なのです。
そのサウンドは、見た目のイメージ通り、ドウゥンと鳴ります。

 

この美しいライトグレーの造形美を前にすれば、誰もが同じ衝動に駆られるハズなので、やってみました。

できれば小さくなって、打面側からツルリと通過してみたいトコですが、さすがにそれは叶いません。

スイスの山地に住んでいれば、スカート履いてアルプホルンのように打面側を咥えて日常の不満を叫びたくもなることでしょう。

おっと逸れた。
とにかく、ドラムに見えない。(笑)
バラした状態では、打面側を下にして、こうして置くしかありません。

うーん、こう置くと、どこかで見たような記憶がありますでしょ。
豪華客船の屋上とか甲板で。(笑)
取材で使ったスタジオのオーナー老夫婦に、「アラ、お舟の汽笛みたいね。何なんですかコレ?」と。
全くドラムとは認識されていないことに大爆笑。
とにかく、並べては笑い、叩いては笑い、こんな愉快なドラムは他にありません。

バスドラムもシングルヘッドです。
これも胴はラッパ状にスエ広がりになっていて、なんとも縁起が良い。

驚くべきことにオリジナルNORTHロゴの印刷されたバスドラ用ヘッドがこのトーリ残っています。

バスドラの打面側(キックビーターがヒットする側)に張るヘッドは、消耗して破けてしまう物なのに、その打面ヘッドにロゴを印刷してしまったという考えの浅はかさ(笑)が、なんともセツナすぎます。

キックの強大な衝撃で破けてしまう打面ヘッドは、いつかは交換しなければなりません。
と、同時に、お客さんから見える唯一のメーカー名ロゴが消えてしまうワケです。
ちなみに、ロゴは、お客さん側から見えるように、打面の裏側に(胴の内側に向けて)印刷されています。

普通、メーカーロゴは打面の表側に印刷されていますが、それでは叩いているドラマーにしか見えないから裏面に印刷されているワケです。

つまり、ヘッドひとつ取っても普通ではない。(笑)

すべてがユニーク過ぎて市場に受け入れられず、地球上から消滅してしまったNORTHですが、決して楽器としてのクリオリティが低かったのではありません。

例えば、タムタムのホルダースタンドです。

80年代に一世を風靡したラックスタンドの原型が既に採用されています。
後に流行る窓サッシみたいな角棒を繋ぎ合わせた無粋なデザインとは一線を画す、美しい曲線を描く湾曲した丸パイプで作られています。

これほどまでの造形美と独特のサウンドを持ちながら、何故、NORTHは売れなかったのだろうか?
そのひとつのヒントが、この日の厚見さんとの会話にありました。
「ムーンダンサーで使ってた当時は、こんなに良い音はしなかったような記憶がある。」

実は今回、輸入した箱から出して、貼られていた古いヘッドそのままで叩いてみたら、いわゆる鳴りが悪いんで、ちょっと残念な第一印象だったのです。

「そうそう、こんなカンジの音だったよ。実は当時もサウンドは気に入らなくて、今回もサウンド的には期待してなかったから、この程度で十分だよ。」

「う〜ん。。。見た目はそれこそVOWWOWの新美俊宏さんサウンドみたいなドウゥーンってカンジなんですけどねえ。。。」

「じゃあ新美君が使っていた黄色いドラムと同じヘッドに替えてみよう!」

「すみません、2年前の新美さんのスペック詳細、覚えてないんです。」

「よし、本人に訊こう!」

カクシテ。

詳細な指南メールが、新美さんから待ってましたと言わんばかりに“即答”で届き、(笑)

その通りのセッティングでヘッドを交換したら。。。

 

ドウゥーン!

「昔はこんな音、しなかったよ!」

恐らく、70年代末当時には、現代のようなヘッドのバリエーションが無く、この特別な構造デザインのNORTHとマッチングするヘッドが無かったのではなかろーか。と。
実際に張られていたメーカー純正のヘッドも鳴りが悪い有り様なのだから、この仮説はけっこうマトを得ているかもしれません。
設計コンセプトは間違っていなかったが、時代を先取りしすぎて周辺機器の開発が後手に回ったというか。

更に。ヘッドの交換作業をしていた時に、面白いエピソードがありました。
ヘッドを新しい物に張り替えて、本格的にチューニングする前に、通常だと新しいヘッドを胴に馴染ませる為に先ずは床に置いてグイグイとヘッドを押すんですけど、
「この形状じゃ床に置けません!どうやってグイって押せばいいでしょうかっ!(笑)」なんていう前代未聞の問題も発覚したりで、バスドラムのロゴ裏面印刷の事といい、もしかしたら設計者は音響工学の知識は優れていたが、ドラムのヘッドが消耗品だという認識が無いというか、交換作業をしたことは無いんじゃなかろーか。
トカね。(笑)

これもまた、実際に入手して、部品を交換したり、チューニングをいろいろ試したりしたからこそ発見できたり体験したりで辿り着けたのであって、それがなければ「記憶の中の鳴らないドラム」で終わっていたワケです。

サテ。なぜに、こんなにもワクワクするような楽しいドラムセットを、ハードロックキーボーディストの厚見さんが入手したかというと。

2013年5月18日。
ムーンダンサーの32年ぶりとなるライヴがあるのです。(こちらのLIVEは終了しました)

Moon Dancer & Tachyon
LIVEレポートUPしました!

ライヴ開催が決まった“その日”に起きたミラクルエピソードは、まるで誰かがシナリオを用意したような一日でした。
キッカケはLed Zeppelinトリビュートバンド、MR.JIMMYを率いる世界最強ツェッペリンマニアックのジミー桜井さんからの電話でした。

MR.JIMMY

「遂に、念願叶ってジミーペイジに会う事が出来ました!」

これはお祝いせねばと、厚見さんと2人でジミー桜井さん邸を訪問した帰路、「まだまだきっと素敵な奇蹟は起きるにチガイナイ!」などと思いながら、新大久保で蔘鷄湯を食べ、いつものように食後のコーヒー飲みにデニーズへ。(笑)

以下、その夜の食事&お茶しながらの会話。

「5月に何かやろうかと思ってたんだけど。会場がなくてねぇ。」
(と、そこに偶然にもライヴハウスから電話)

「え?18日がOKなんですか? 会場、誕生日で取れちゃったよ。何やろうか。」

「ムーンダンサー!タキオン!」

「メンバー集まるかな。。。電話してみようか。」 
(で、電話)
「それが。。。全員がOKだって!」

「じゃあ機材は当時の“キーボードのお城”でお願いします!」

「これでNORTHのドラムがあれば、バッチリなんだけどなぁ。。。」

「あれ?今、iPhoneでネット検索したら、アメリカで売ってますね。」

「ええ!32年間、見た事ないよっ!!!!。。。。ほ、欲しい。。。」

「買ってください! あ、我慢してたんで、ちょっとトイレに行ってきます。」

で、トイレから戻ってきたら、
「我慢できなくてBUY IT NOWボタン押しちゃったよ。NORTH、買っちゃった。」(爆笑!)

これ実話です。(笑)

ホンの1〜2時間の間に、アレヨアレヨと。なんか流れ星が雪みたいにキラキラ降って来るようなイメージでした。
この奇蹟としか言いようがない展開に始まり、この美しいライトグレーのNORTHドラムセットが舞い降りて、5月18日のライヴへと。

つまり、これを読んでくださって、NORTHに興味を抱いた皆さんが、そのサウンドを体験する場所が用意されているという事なのです!

がっ!

ぬわんと、ライヴチケットは発売当日にソールドアウト。
幸運のチケットをGETできたお客さんのみが、こう語り合うことでしょう

「MOON DANCER を見たよ!」
「TACHYON を見たよ!」
「こういう風になっている(と、ジェスチャーしながら)NORTHドラムセットを見たよ!」と。

70年代末期に彗星の如く月から舞い降り、
次の瞬間、忽然と姿を消した未来のドラム、

幻のNORTH。

時代が追い付けなかった楽器が、光の粒子よりも早く時空を超えて。
32年後に再び現れ、そこで起こす“奇蹟”は、もう始まっています。

本物の楽器、本物の音楽が持つ特別な“なにか”は、
この世界に、ほんとうに存在します。

Written by Eiji Farner

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